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『明恵 夢を生きる』

明恵は鎌倉時代の高僧である。彼の歩んだ華厳の世界は残念ながらその後の日本で大きな広がりを見せなかったけれど、たとえば、明治憲法に至るまで我が国をささえた法「貞永式目」、その制定に明恵が大きくかかわっていたとの山本七平の指摘があるそうな。つまり日本人の生活を律する思想の根本に明恵の教えが生きていた(いる)のである。■明恵の宗教心の深さをあらわすエピソードは事欠かない。明恵の美貌を誇った父が「大臣に仕わせよう」とたわむれに言ったのに対し、「自分は僧になるのだから、それは困る」と明恵は考え、自分の顔を傷つけようとした(縁から落ちようとしたり、火箸で顔を火傷させようとしたり、どちらも未遂らしいが)のは、4歳のときのこと。「われはもう老いた。どうせ死ぬのなら、衆生のため、虎狼に喰われて死のう」と、墓場で一夜を明かしたのは、13歳のときのこと。また青年期になってからも、まわりの僧侶の堕落に失意し、もはや剃髪や僧衣はほとんど意味がないと考えた明恵は、仏道への志を確立させたい思いから、「眼をつぶしてはお経を読めなくなるし、鼻をそいでは鼻水が落ちてお経を汚すであろう。手がなくなると印を結ぶことができなくなる。そこで、耳を切れば、耳は切っても聞こえるために法文を聞くのに不自由はない」(*1)と、自ら耳を切る。さらに明恵らしいのは、そんなことをして「崇敬に妖(ばか)され」て、望みもしない出世をしてしまうのは困るなぁとの心配も怠らないのである。■明恵は、俗にいう「テレパシー」も手中におさめていたようであるが、そのすごさを騒ぐ弟子たちに「修行をしていれば、誰でも可能なことだ。なんら不思議なことでない」と諭し、他言はするなとも言っていたらしい。そして晩年の明恵は、同時代に肩を並べる者のないほどの(ちなみに明恵と親鸞は同じ年の生まれ)高僧となっていたが、最後まで内的な修行を怠らなかったという。■臨床心理学者の河合隼雄は、明恵を「彼は世界の精神史においても稀有と言っていいほどの大きい遺産をわれわれに残してくれた。それは、彼の生涯にわたる膨大な夢の記録である」(*2)と表現しているが、19歳から亡くなる前年(60歳で入滅)までの夢、およびその解釈を、明恵は書き記している。当時の人々が夢告をいかに大事にしていたかは、親鸞の六角堂での夢告(このために現代まで続く浄土真宗が起こったともいえよう)などからも窺い知れるが、明恵の場合は、夢と覚醒を差別する意識の隔たりがなく、夢、およびその解釈は、彼の修行、あるいは修行の結果、さらには修行の道しるべでもあったのだろう。■な~んてことを、わたしは『明恵 夢を生きる』(河合隼雄・著)から知った。(上記にあげた明恵のエピソードは本書に依る)。本書では明恵の夢およびその解釈が河合隼雄の添えた言葉でいっそう膨らみを見せている。そして夢の秘める力を、現代人に示している。

(*1) 『明恵 夢を生きる』164頁
(*2) 『明恵 夢を生きる』16頁
年齢は、『明恵 夢を生きる』に習い、数え年である。

< 追記 >
◎夢、といっても、ぐうぐう寝ているときの夢ばかりではない。修行の最中にみる幻想(ビジョン)も含めている。
◎「ぐうぐう寝てばかりいる」わたしだが、ここで、自らの睡眠時間の多さを免罪しようという意図はもちろんない。

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はえともみ

Author:はえともみ
 
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