2016/02/20 (Sat) 分人(三)

実際にコミュニケーションの現場を考えてみますと、自分は一つの人間で、自分という個性は一つだけだと思っていても、接する人たちもみんなそれぞれ個性をもっているわけですから、どうしても「オレはオレ」とどこにでも通じる個性というものはなかなか難しいわけですね。どうしても相手とのコミュニケーションのなかで、その人の影響を受け、またこちらも影響を与えて、色々な顔をもってしまうことになる。「本当の自分は一つだ」という考えがあり、にもかかわらず、色んな顔を現実的にはもってしまっているというとこで、いわば苦肉の策としてですね、人間は中心に本当の自分があるんだけど、人間関係のなかでは複数の自分を演技して使い分けているんだというような、一種の人間観のモデルのようなものが近代以降ずっと定着してきたわけです。

ところが先ほど申しましたように、自分がウソの表面的な演技をしながら生きているという考え方に、なかなかボクたちは満たされないわけですね。そこで「個人」という考え方をですね、もともとインディビジュアル、分けられないという意味ですけど、インディビジュアルの、インという否定の意味をとって、ディビジュアル、つまり「分けられるんだ」ととってみたらどうかというのが、今日のボクの提案です。

それは、分けられるという意味で、「個人」という言葉に対して、「“分ける”に人」と書いて、ボウは「分人」という造語を作りました。一人の人間のなかには対人関係ごとに、色々に変わる分人がいくつもあります。個人という概念では「本当の自分が一つだけあって、表面に演技している自分がある」というモデルでしたが、分人は一つだけ本当の自分があるというのではなくて、「対人関係ごとの、色んな顔を全部、本当の自分として、まず認めましょう」というところから考え始めます。そして、その色んな別人を「どういう比率で自分のなかにもっているか」、例えばものすごく尊敬する師に出会ったとして、その人と過ごす時間は自分にとって非常に大きな場合は、その人のなかでの恩師との分人は非常に大きな比率であって、他の人との付き合いの分人というのは比率的に小さくなっていくでしょう。あるいは、すごく好きな彼氏ができて、その人と付き合いだすと、その人との分人は大きくなり、他の友達との付き合いというのは比較的小さくなっていくかもしれない。だけど二年くらい経ってその彼氏と別れてしまえばですね、今度は友達との分人というのが自分のなかで比率として大きくなる時期が来るんじゃないかと。

どうしてこういう考え方が今重要かと申しますと、最初に申し上げましたように、「自己肯定」の手がかりになるんじゃないかという意味なんですね。というのは、ボクたちは、なんらかの形で自分を好きになる、自分に対して肯定的な感情をもてないと、なかなか今の世の中生きていくのが難しくなると思います。自分は、自分のことが本当に嫌だと、自分が嫌いだと思いつめてしまうと、やっぱり生きていて辛いと思うんですね。しかし、じゃあ、自分のことを大事にしなさいと、自分を好きになりなさいと一方的にいっても、なかなかこれは難しいことで、僕自身も「平野さん、あなた自分のこと好きですか?」と誰かから聞かれると、まあ、好きといっていいのかどうか、ちょっと躊躇ってしまうわけですね。やっぱり自分の欠点も色々知っていますし、毎朝鏡を見てオレはオレのこと好きだなあと、しみじみ思える人はよっぽどナルシストで、やっぱり自分を全肯定するのは難しいわけですね。

しかし対人関係ごとに考えれば、つまりAという友達といるときの自分はどうかなと、あるいはBという友達といるときはどうかなと、あるいは恋人といるときの自分はどうか、親といるときの自分はどうかというふうに、分人ごとに考えていくと、意外と人は「Aという友達といるときの自分はけっこう好きだ」と、明るく色んな冗談とかもいえて、楽しい気分にもなるし、Bという野郎といるときはなんかいつもムカムカして、つい嫌なことをいってしまうと。Bといるときの分人は好きじゃないなと。あるいは今の恋人といるときの自分はウキウキしていて、楽しいと。分人ごとに考えていくと、好きな分人というのはいくつか見つけられるかもしれない。

逆に、学校でいじめられたりして、自分のことがすごく嫌になっているという人がいるとします。否定のほうは肯定と逆に、自分を好きっていうのは難しいけど、自分を一気に全部嫌いになってしまうというのは不幸にしてあるわけですね。自分が生きているのは嫌だと、最悪の不幸の場合は自殺したくなってしまうということもあるでしょうが、しかし仮に例えばいじめられたりして自殺してしまうような人でも、あとから聞くと「家庭では両親との関係はすごく良くって、ただ学校でいじめられていて、それを苦にしていた」とかいうことはあるわけですね。

そうした場合に先ほどから言っているように、分人の構成というのが、例えば円グラフにしてみて、学校にいるときの分人、親といるときの分人、とかいうのを図かなにかにしてみるといいと思うんですね。そうすると、いじめられていて、自分の全部が嫌と思っているかもしれないけれど、本当はいじめられっ子との関係の分人だけが嫌なんであって、実は生きていて楽しいと思っている分人が他にもあるじゃないかと。だったらその分人というのを、しばらく足場にしながら、どうやったら自分の好きな分人を増やせて、嫌いな分人を生きずに済むか、つまり学校を辞めるなり、転校するなりということを考えられるんじゃないかということを、具体的に状況を改善していけるんじゃないかと思うんですね。



つづく・・・

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Author:はえともみ
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